ハキダメ記

読書録(主にキリスト教関連)

『「カルト」はすぐ隣に −オウムに引き寄せられた若者たち』江川紹子著 を買った

 オウムに引き寄せられた若者たちの様々なケースを、著者の江川紹子氏が細かく分析し丁寧にまとめ、「オウム事件の教訓」として「カルト」にねらわれやすい若者に向けて書かれた本です。

 「カルト」は、「遠い世界」の存在ではなく、私たちの「すぐ隣に」いる存在なのです。


『「カルト」はすぐ隣に −オウムに引き寄せられた若者たち』江川紹子著 岩波ジュニア新書 2019年6月20日第一刷発行



 本書は、オウム真理教および「カルト宗教」というものが、非常にわかりやすくまとめられている本です。

 そして本書は、著者である江川紹子氏のオウム事件の教訓を若い人たちにもしっかりと受け取って欲しい」という熱い想いがシッカリと伝わってくる本でもあります。

 「中高生」に向けて書かれた本ということもあり、本書は、スラスラと読めながらも、イロイロと考えされられる本なのであります。

 そして、オウム真理教のような「カルト宗教」は、「過去の遺物」でもなく、「もう過ぎ去った現象」でもありません。

 「カルト」は、今も変わらず私たちの「すぐ隣に」いる存在なのです。


 あるオウム真理教の元信者は、次のように述べています。

 「この世には自分の居場所がない」「私が生まれてきた意味が分からない」−−そんな思いに苛まれている時に、私は一冊の本に触れたことから、宗教にのめり込んでいくことになります。
(略)
私は、ヨーガに熱中するとともに、現状を打破したい、今の自分を変えたいという思いにかられて、宗教書や自己啓発の本を読み漁りました。
「3章 ある元信者の手記」(p.60-61)

 彼は、「今の自分」を脱却するために、オウム真理教「自分から」のめり込んでいったようです。

 ですが、「自分から」といっても、それは「積極的」とか「自由意志的」といった性質のものではなく、「脅迫観念的」といった性質のもののように感じました。

 そして、彼が「脅迫観念的」になってしまうのは、彼にとって「今の自分」を変えないと、「自分の居場所がない」もしくは「生まれてきた意味がない」ということになってしまうからではないでしょうか。


 別の元信者のケースです。

それでも心の中では、人殺しの手伝いをさせられるのは嫌だ、やりたくないと思いました。教義を信じ、麻原は絶対的な存在だと考えていたものの、この頃の彼は、まだ本来の感性を完全に失ってはいなかったのです。彼の感性は、懸命に警鐘を鳴らしていました。
 けれども彼は、教義の理屈でこの事態を理解しようとします。
(略)
こうして彼は、自分の感性を封じ込めてしまったのです。
「4章 オウムに引き寄せられた若者たち」(p.133-134)

 彼が行ったような、自分の強い理性によって自分の不安な感情を抑圧する「自己抑制」は、幼少時、親もしくはまわりの人間が「押しつけ型」であった人ならば、だれでも無意識のうちに行ってしまうものではないでしょうか。

 著者の江川紹子氏は、次のように述べています。

 こんな風に疑問や違和感を自分自身で抑えつけ、教義の世界だけでモノを考えてしまうのが、オウムのようなカルトの心の支配の特徴です。
「4章 オウムに引き寄せられた若者たち」(p.134)


 オウムの信者になった人たちは、みな、「自己抑制」に長けているような感じがしました。

 また、オウムの信者になった人たちは、みな、「脅迫観念的」に「今の自分」でなくなろうと必死の努力をしているような感じもしました。

 そして、この悲劇的で破滅的な努力を高く評価し、「今の自分」を脱却することができると偽って、彼らを取り込んだのが「オウム真理教」だったのではないか、と感じました。

 ですので、「自分の居場所」や「自分が生きている意味」などについて思いまどいやすい若者こそが、「カルト」につけ込まれやすいのだと思います。

 「カルト」は、遠い世界の存在ではなく、私たちの「すぐ隣に」いる存在なのです。


 巻末には、年表ばかりでなく「参考文献」も載せられているので、「カルト」という現象の知識をもっと深めたいという要求にも応えてくれます。

 本書は「ジュニア新書」ですが、対象の「中高生」だけでなく、ブログ主のような「中高年」にもおすすめの本です!!


最後までお読み下さりありがとうございました。


☆☆☆「カルト」はこの記事でも扱っています♪☆☆☆
uselessasusual.hatenablog.com