ハキダメ記

読書録(主にキリスト教関連)

「リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義」渡辺靖著

 「帯」に引かれて買った本である。
 帯にある、

○移民
○人工妊娠中絶
規制緩和
○LGBTQ

×ナショナリズム
×人種差別
×イラク戦争
×オバマ・ケア
×銃規制
×死刑

 というような、「保守」とも「リベラル」とも異なる、「リバタリアニズム」独自の価値観がブログ主の目を引いたのである。


 本書は、雑誌『中央公論』の連載記事に加筆修正を加え、再構成して出版されたものである。
 著者の渡辺靖氏は、渡辺篤史の建もの探訪』ばりに、アメリカ各地にある「リバタリアン」の協会や団体をアチコチ探訪し、その代表者たちから話をイロイロ聞き出している。
 が、しかし、同じ渡辺でも、著者は《やすし》なので、《あつし》のように床や柱には感動していない。


リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義渡辺靖著 中公新書2522 2019年1月25日初版


 リバタリアンは、アメリカ本来の「自由主義を取り戻そうとする勢力であり、その特徴は「自由市場・最小国家・社会的寛容」というものを最重要視している点にある、という。

リバタリアンの側からすると、厳罰化や軍備拡張に積極的な保守派も、規制強化や公共事業に積極的なリベラル派も「大きな政府」を前提としている点は同じだ。絶対王政に象徴される政府の圧制からの解放を求め、自由市場・最小国家・社会的寛容を重んじる、本来の自由主義からはどちらも逸脱してしまっている。リバタリアンこそが真の自由主義を忠実に堅持している、と自負している。(p.14)


 ヨーロッパの政治空間は、保守主義(君主や貴族による統治)社会主義(巨大な政府権力による統治)、そして自由主義という「三本の対立軸」よって織りなされてきた、と本書は述べている。
 そして、アメリカの政治空間は、それとは全く異なるものだ、という。

アメリカでは「保守」も「リベラル」も自由主義を前提としており、イデオロギー間の差異はもともと小さい。アメリカの「保守」は自由主義の右派に過ぎず、「リベラル」は自由主義の左派に過ぎない。いわばコカ・コーラ」か「ペプシ・コーラ」か程度の違いに過ぎないという見方もできる。(p.94)


 このようなアメリカの政治空間の中、リバタリアニズム」が《突如として先鋭化》したのだという。そして、「その直接的な契機は「進歩派」によるニューディール政策の施行であった(p.95)」。
 それというのも、自由主義「左派」であるはずの「リベラル」が、「大きな政府」を容認するように大きく舵をきったから、である。リバタリアンにとっては、それがどうにも我慢ならんかったらしい。

リバタニアンはあくまで上からの強制によらない、自発的な協力市場のメカニズムに基づく解決を重視する。(p.105)

 こうした特徴を持つ「リバタリアニズム」が、アメリカにおいて若者(ミレニアル世代(1981-96生まれ))を中心に勢力を増してきている、という。


 昨今のリバタニアンは、頭を抱えている、という。それというのも、人種や民族、LGBTQ(性的少数者といったような、《個人のアイデンティティ》といったものを、《政治勢力の肥大化》に利用しようとする、アイデンティティの政治」が過剰であるからだという。
 例えば、極右勢力がヨーロッパにおいて「反移民」というアイデンティティによって、その勢力を肥大化させようとしている、というのがその実例である。
 そして、問題は右派だけに限られるものではない、とリバタリアンは捉えているようである。

ただし、それは決して右派だけの現象ではなく、ポリティカル・コレクトネス(PC、政治的建前)を振りかざして異論を封じ込めようとする左派も同罪と見なす。(p.183)


 また、リバタリアンは、トランプ大統領に代表されるようなポピュリズム」の台頭にも頭を抱えているという。
 そして、前述の「アイデンティティの政治」と、この「ポピュリズム」。このふたつは結びつきやすいものであり、その最たる例が「トランプ現象」なのだという。そしてこれも、問題はトランプだけに限られるものではない、という。

自分たちの共同体が攻撃・浸食されているという被害者意識を創出し、恐怖や対立を煽る「分断の政治」に訴える手法はトランプの専売特許ではない。リバタニアンからすると「(裕福な)一%対(それ以外の)九九%」といった単純な図式で市井の反資本主義、反自由貿易、反エリート主義を煽り、「民主社会主義」を掲げるバーニー・サンダース上院議員も、程度の差こそあれ、トランプ氏と同じ手法に訴えているように映る。(p.184)


 本書の感想としては、自分自身も「リバタリアニズム」に共感する部分が実に多かった。自分も「上からの強制」は大嫌いだからである。
 ただ「そこまで徹底して政府を敵視しなくてもいいじゃん」と感じるところも多かった。日本の「大きな政府」に依存している自分としては、「最小国家」はあまりに不安だからである。

 本書も巻末に「索引」と「参考文献」が掲載されている。自分は、リバタリアニズムに多大な影響を与えた《アイン・ランド》という人物が気になったので、折を見て彼女の著作を読んでみようと思いました。以上。


肩をすくめるアトラス 第一部

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肩をすくめるアトラス 第二部 二者択一

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肩をすくめるアトラス 第三部 (AはAである)

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